──寒い。
そう思うようになったのはいつからだろうか。
氷上はいつだって孤独との戦いだったけれど、それを苦痛に思ったことなどなかった。寒さを辛いと思ったことなどなかった。
氷の上を滑れば滑るほど身体は温かくなって、寒さなど感じる暇もないくらい、自分と氷だけの世界に没頭できていた。だからこそ、その孤独を苦しいと思ったことはなかった。悲しいと思うはずもなかった。
自分を追ってくる人も、ましてや自分の上に立つ人も居ない世界で、自身を証明することだけが重要だったのだ。そうすれば、世界は自分たちに干渉してこなくなるのだと信じていた。そうすることで、陸の世界に溢れる煩わしさを消してしまえると、愚かにも信じ切っていた。
馬鹿な理想だった。
生きるために必死で。誰にも邪魔されずに生きるために、あの金色が必要だった。自身の証明と、生きるための世界からの許しを、ひたすらに求めていたのだ。
だから、寒さなど気にしてはいられなかった。たとえ身体が少しずつ動かなくなっていたとしても。跳ぶたびに身体の重さが増していたとしても。決して止まるわけにはいかなかった。すべての証明を終えるまで、自分は氷上に居続けなければならなかった。
最後の最後まで。氷の世界での自分の最期を理解しながら、ただ滑り続けた。それはほとんど意地のようなもので。苦しいと思ってしまった自分が本当に嫌だった。陸の世界の息苦しさを、氷の世界の生きやすさを、心底知っていたからこそ嫌だったのだ。誰にも知られたくなかったし、あの子にだって気づかれるわけにはいかなかった。
だけど、それでも。
どうしようもなく氷上が寒いと、そう思ってしまったのだ。
