ホグズミード駅に到着後、新入生は在校生と同じ馬車には乗らず、森番のハグリッドの案内で森の中を進んだ。
泥濘の多い道に足を取られながら湖に出ると、四人一組で小舟に乗り込む。シリウスは当然のようにジェームズに肩を組まれ、彼とその時乗り合わせた少年二人とで湖を渡った。
できることならばセブルスと一緒の舟が良かったとは思ったが、ジェームズがセブルスを毛嫌いしている以上、無理を通すことはできない。無理を通してセブルスに負担をかけることは本意ではないのだ。
乗り合わせた少年二人は、顔に傷がある少年がリーマス・ルーピン、小柄でおどおどした様子の少年がピーター・ペティグリューと名乗った。
ジェームズはその少年達を気に入ったようで、舟が湖を渡る間ずっと親しげに声をかけており、その流れで友人関係を結べる程度には、シリウスもリーマスとピーターの二人と仲良くなった。
「ところで、組分けがどうやって決まるのか君は知ってるかい?」
舟を降り、ハグリッドからマクゴナガル教授に案内が替わったところで、ジェームズが訊ねてきた。
「さあ? 本人の気質を見るって話だけどな」
「僕も知らないや。何か魔法を見せるのかと思ってたよ」
「え! そんなの無理だよ。どうしよう……」
シリウスが答えると、リーマス、ピーターと続く。ピーターがリーマスの言葉を聞いて途端に不安そうに視線を彷徨わせるので、シリウスは「大袈裟だなぁ」と笑みを零した。
「魔法なんて、入学したばかりの子どもに使わせる訳がないだろ? 呪文も満足に知らない奴に何をさせるって言うんだよ」
「そ、そうだよね」
「当然だ。もっと簡単にわかる方法だろうさ」
「ええ〜、それじゃつまらないじゃないか!」
ピーターが安堵した横で、ジェームズが不満そうな声を上げた。おいおい、とシリウスは呆れた顔を向ける。
「面白さなんて学校側が考えてくれると思うのか? つまらないことを面白くするのが俺たち子どもの役割だろ」
「シリウス、君いいこと言うね!」
ジェームズがにっこりと笑う。駄々をこねて騒がれては困るから、シリウスの適当な言葉で満足してくれて良かったと思った。
そのように、しばらく取り留めのない話を四人で交わしていると、新入生を玄関ホールに案内した後、準備があると言って大広間に続く扉の奥に入っていったマクゴナガル教授が戻ってきた。
「皆さん、静かに。これより組分けの儀式を行います。私に続き、遅れないように中へ入るのですよ」
玄関ホールに声を響かせると、厳格な雰囲気を保ったままマクゴナガル教授が大広間の入り口の扉を開く。
落ち着きがなく騒がしい新入生を上回るほどの歓迎の声が大広間から聞こえ、新入生達は誰も彼もが頬を興奮で赤く染めながら大広間の中を進んでいった。
「シリウス見てみなよ。空が見えるぞ!」
「わっ! これも魔法なのかな?」
「そうだろうね。すごいや」
ジェームズがシリウスの肩を組み天井を指差す。釣られて顔を上げたピーターが驚きの声を上げ、リーマスが頷きながらも感動に息をついている。
「ああ、随分と大規模な魔法だ……」
シリウスはジェームズ達に合わせて感嘆に聞こえる声を出したが、内心では冷めた気持ちで天井を見上げていた。
必要のないところに贅を凝らすその趣向が気に入らなかったのである。今日が入学式だと言っても、このような歓迎の仕方はあまり褒められたものではない。大広間の天井に空を映したとして、それが歓迎の意になるかと言えばそうではないのだ。
そのようなところに魔法を使うくらいなら、もっと違った形でわかりやすい歓迎の気持ちを示した方が良いとシリウスは思う。
「僕ら、本当にホグワーツに入学したんだよ。今実感してる」
感動し、天井に目を奪われている様子の三人を横目に、シリウスはすっと教員席の真ん中に座るダンブルドア校長へと視線を移した。
「だな。俺も今ようやく実感してるところだ」
あの面倒な校長を相手に決して悟られることなく、自らの目的を達成しなければならないのだ。今の段階から気が重い。
如何にも子どもらしい無邪気な笑みを浮かべながらジェームズ達の方へ振り返り、校長の視線から逃れる。シリウスがブラック家の子どもだからと、シリウスの為人など知りもしない今の状況ですでに警戒した目を向けてくるダンブルドア校長には辟易した。
マクゴナガル教授の横で椅子に乗せられた組分け帽子が歌い出し、新入生・在校生問わずその歌に聞き入っている。
内容も何もあったものじゃない歌が終わると、大広間に拍手の渦が巻き起こり、ジェームズ達に合わせてシリウスもおざなりに手を叩いた。表面上はホグワーツへの入学に心躍らせている無邪気な子どもの顔を装っておく。
その途中でさりげなく視線を右に向ける。視線の先、シリウスから少し離れた右後方で、リリーとセブルスが組分け帽子を見つめていた。
リリーが頬を紅潮させているのに対し、セブルスは興奮を押し隠そうとしている様子が見える。列車内で持っていた本を置いてきたのだろう、ローブの裾をきゅっと握り込む様子が可愛らしい。
拍手がようやく収まり、マクゴナガル教授が咳払いをした。
「これより組分けを行います。名前を呼ばれた人から前に出て椅子に座りなさい。私が帽子を被せますので、告げられた寮の席に向かうように」
そう宣言すると、名簿だろう羊皮紙を持って口を開く。ファミリーネームが『A』から始まる生徒が三人ほどおり、その組分けを待つ間、シリウスは自身が憂鬱な気持ちになるのを感じていた。
正直なところ、シリウスはこの組分けの儀式を知っていた。ジェームズ達には知らないと答えたが、組分け帽子による寮の振り分けは、祖父の時代よりも前から変わらないものだったからだ。
父からそのことを事前に聞いていたシリウスは、当然のように組分けの仕組みも知っていた。開心術を用いることで生徒の記憶や考え方を読み取り、どの寮の思想がその生徒に合っているか判断するのだ。
故にシリウスは不安に駆られていた。
シリウスはこの儀式でグリフィンドールに入るつもりだったが、どうにも怪しい立場であることもわかっていた。自分の気質がグリフィンドールなことは間違いないが、スリザリンの気質もまた同程度持っていることを理解していたのだ。
どちらに転んでもおかしくない状況は、俗に言う『組分け困難者』に当て嵌まるはずで、組分け開始早々に他の新入生を待たせ、注目を浴びる状況になることを煩わしいと思う。できることならば、皆が組分けに飽き始めた終盤が良かったと、ファミリーネームのイニシャルが『B』である以上どうにもならないことを、シリウスは考えていた。
憂鬱に拍車を掛けるばかりのシリウスの思考も、先に組分けされた三人の新入生が終わってしまうと強制的に浮上させられた。
「──ブラック。シリウス・ブラック!」
名が呼ばれた瞬間、大広間がしん、と静まった。すぐに元通りの喧騒に戻ったので、気のせいだと思ってもおかしくないほど一瞬の出来事であったが、シリウスは生徒達が一斉に息を詰めたことに気づいていた。
──この中に、あのブラック家の長子がいる。
生徒達は元通りの自分を装いながらも、新入生の中に紛れるブラック家の長男がいったい誰であるのかを息を殺して探っていた。特にスリザリンの寮生は、シリウスが当然スリザリンに入るものと思いながらも、対外に見せる反抗的な態度から募る不安に、固唾を呑んで組分けを見守っているようだった。
「え」
例外なく騒つく新入生達の中でも、マクゴナガル教授の呼んだ名前に最も驚いていたのはジェームズであった。
間抜けな声を零し、肩を組んでいた腕を僅かに上げて瞠目している。ぎこちない動きでシリウスに顔を向けると、まさか、と声に出さずに唇を動かした。
「何だ。気づいてなかったのか?」
少し離れたと言ってもまだ拘束しているジェームズの腕を退け、シリウスは不敵な笑みを浮かべてジェームズを見遣った。これ見よがしに小首を傾げてみせる様が、息を呑むほど美しい。
ああ、確かにこいつはブラックだ、とジェームズは腑に落ちた気持ちで呆然とシリウスの顔を見つめた。そんな滑稽なジェームズに笑いを堪えきれなかったシリウスは、ジェームズの後ろで目を見開いているリーマスとピーターにも顔を向けて笑った。
「はははっ。お前ら、揃いも揃って! 俺が家名を名乗らないのを不思議にも思わなかったのか?」
はくり、と口を動かすだけの人形のようになっているジェームズ達に、シリウスは「仕方のない奴らだ」と呆れた目を向けた。しかし、驚きで思考が追いつかない様子の彼らを見続けている暇などシリウスにはなく、呆れながらもジェームズの肩を二度ほど軽く叩くだけに留めた。
「まあ、組分けを見ていればいい」
今日歴史が動く。シリウスはそのようなことを口にした。そうして、再三シリウスの名を呼び、早く前に出るように促すマクゴナガル教授の声に従い、裕然と組分け帽子の前へと進んだ。
人垣は自然と二つに割れ、一種の異様な空気に包まれた大広間の中、シリウスは随分とゆったりとした様で椅子に腰掛ける。マクゴナガル教授がその泰然自若とした雰囲気に気圧されたように、組分け帽子を被せる手を少し彷徨わせてからシリウスに帽子を被せた。
帽子を被せられるその寸前、シリウスは酷く驚いた様子でこちらを見上げているセブルスの姿を捉えていた。
随分と驚かせてしまった。そんな後悔が過ったが、あのコンパートメントの中で家名を名乗ることはどうしてもできなかったのだ。シリウスは胸中で謝罪することしかできない。このことが理由で嫌われてしまったら、と不安で仕方がなかったが、今の状況では弁明の言葉さえ叫ばせてもらえないのだ。
組分け帽子に隠れて見えなくなってしまったセブルスの様子が気がかりで仕方なく、シリウスは無意識の閉心術を緩めることさえ忘れてしまっていた。そのことを組分け帽子に指摘されて初めて気づくと、常の閉心術を少しばかり緩める。
意識が外界を遮断し、自分の内側へと落ちていく感覚がする。ついに組分けが始まるのだと悟り、シリウスは余分な思考を捨て、組分け帽子の声に耳を傾けた。
◇◇◇
シリウス・ブラックの組分けは驚くほど時間がかかった。
通常ならば一分足らずで終わる組分けが、なんと十五分近くもかかったのだ。俗に言う『組分け困難者』でもこれほどではない。せいぜい長くとも五分ほどである。
大広間の生徒が異様な熱心さでシリウスを見つめる中、シリウスは組分け帽子を被って数分は微動だにしなかった。それは帽子の方も同じで、息を詰めて耳を澄ましていた生徒達もどうしたことだと騒ついた。しばらくして組分け帽子が動き出したが、シリウスと何かしら話し出すではないか。
一向に寮の名を叫ばぬ帽子に、生徒達はシリウスが『組分け困難者』なのだと気づく。ならば気長に待つかと、生徒は肩の力を抜いてシリウスを見守っていた。
だが生徒達の安堵も束の間、シリウスの組分けが五分を過ぎても終わりを見せない。まさかの事態に生徒は皆、目を見合わせて「どういうことだ」と囁き合った。
特に顕著だったのがスリザリンの寮生達だ。彼らはシリウスが当然スリザリンに入るものと、多少の不安はあれど考えていたので、組分けが長引いても鷹揚に構えていた。しかし、異例の長さをシリウスが記録すると不安がもたげてきたらしい。優雅さは損なわないものの、頻りに隣席の友人達と困った顔をしてはシリウスにちらちらと視線を向けていた。
そんな騒めきの中、セブルスは自らの感じた驚きをどうにか宥めようと苦心していた。
――まさかシリウスがあの『ブラック』だったなんて。
魔法界の王族とも名高いブラック家の長子。それが今、組分け帽子を被り座っている新入生の少年であることなど、セブルスは全く気づいていなかったのだ。
ホグワーツ特急の列車内。コンパートメントで出会った時、シリウスは家名を言わなかった。子ども同士の自己紹介において家名など重要視されない上に、魔法族でもない人間の家名など「だから?」と流されることが普通であったので、シリウスを除けばあの場で唯一純粋な魔法族であったジェームズすら改めて聞き出したりしなかった。
ジェームズはもちろんのこと、セブルスでさえシリウスはマグル出身なのだと思っていたのだ。それにしては魔法界について詳しいので、セブルスは彼の親の片方または両方が魔法族であり、酔狂にもマグル側で暮らしてきたものだとばかり思っていた。
そうでなくとも、シリウスという少年は他に類を見ないほど容姿に優れていたため、何か複雑な事情があるのだと考え、あえて口に出したりもしなかった。
こんなことならあの時聞いておくのだった、とセブルスは後悔する。どこかの純血貴族の令息または令嬢が駆け落ちでもしたのかと、自分の事情から当て嵌めて納得している場合ではなかった。
いや待て、とそこでふと思い直す。あの時言い出す様子のなかった家名を、聞いたところでシリウスが素直に言ったとは思えない。ジェームズの誤解を解こうという様子も見せなかったのだ。何か考えがあったのだろう、とセブルスは一人納得しながら改めてシリウスを見つめた。
残念なことに、組分け帽子に隠されてその美しい容貌は見えなかったが、子ども故の未完成な手足の美しさがまるで輝いて見えた。
粗暴な言動を滲ませてはいたが、思い返してみればシリウスという少年は礼儀正しく、あの短い間で育ちの良さを垣間見せていた。
何故自分は彼をマグル出身などと勘違いしたのだろうか。言動云々を鑑みても、彼は魔法界出身の魔法族、それもとびきり良い家の子息にしか思えなかった。
「ねぇセブ。みんなが言ってる『ブラック』は、そんなにすごいことなの?」
セブルスが自分の節穴具合にため息をついていると、リリーが首を傾げながら訊ねてきた。
なるほど、リリーは大広間に広がる雰囲気が理解できていないようであった。生徒達がシリウス・ブラックの名に反応して騒めいていることが、リリーにはわからなくても仕方ない。彼女はセブルスと出会うまで、自分が魔女であることさえ知らなかったのだ。加えて、ホグワーツへの入学許可証が届くまで、魔法界に足を踏み入れたこともない純粋なマグル出身の魔女だ。魔法界の常識など知っているはずもない。
「『ブラック』は魔法界の王族とも呼ばれている有名な家系だ。魔法族……特に純血の魔法使い家系なら、家系図を遡れば必ずどこかにブラックの血筋の者がいると言われている」
魔法界のことについて母親からこっそり教えてもらっただけのセブルスでさえ知っている有名な家、それが『ブラック』だった。
セブルスはどうにも据わりが悪い心持ちになり、自然と俯いてしまった。
「随分すごいのね……」
「まあ、僕達で言うところの貴族出身だからな」
「それも、王家に連なる家ってことでしょう?」
「うん」
遠い世界に住む人なのね、とリリーは感心したような興奮したような様子で頬を上気させている。雲の上の人だと知らなかったとはいえ、親しく話をしたということに心躍らせているようだった。セブルスはリリーのような気持ちにはなれないでいるというのに、何とも呑気なものだと、少し呆れてしまう。
楽しそうなリリーに対してセブルスはどんよりとした憂鬱に苛まれていた。コンパートメントでシリウスと知り合った時はあれほど心が躍ったというのに、今や自分の立場の危うさを突きつけられた気分である。
それほど、シリウスという少年が持つ『ブラック』の名はセブルスにとって手の届かぬ人の証に他ならなかったのだ。
もしも寮が違ったとしても、組分けが終わった後に折を見て話しかけようと思っていたのに。これでは話しかけられるはずがない。
セブルスはすっかり意気消沈してため息をついた。きらきらと目を輝かせているリリーの世間知らずさが羨ましく思える。
入学前は自分が魔法使いであることを誇り、他者とは違う特別な人間なのだと思うことで、自らの劣悪な家庭環境への劣等感を誤魔化していたのだ。そんな脆い自尊心も、シリウスを前にすれば役立たずに等しいものに成り下がる。こんな何も誇れない自分などが、どうしてシリウスと親しくしようなどと思えるのか。
「……きっと列車でのことは、入学前のお遊びだったんだ」
「ふふ。すごい人でもそういうことをするのね」
セブルスの打ちのめされた気持ちから出た独り言に、リリーが笑みを零す。初対面のシリウスの印象が悪くなかったことから、マグルで言うところの貴族出身の人間でも親しみを感じているようだった。
実際はリリーが考えているよりもずっと、魔法界の一般家系と純血貴族には隔たりがある。それもシリウスのような王族と呼ばれる家の長男であるなら、一般家系出身の魔法使いでさえ声をかけることが憚られる相手だ。セブルスのような魔法族の血を半分継いでいるとはいえ、マグルの世界で育った者や、それこそ純粋なマグル出身のリリーは、下手をすると視界に入ることさえ許されないかもしれない。
一度話をしたのだし、これからも仲良くしてくれるかしら、と目を疑うようなことを零すリリーに、セブルスは現実を教えるべきかどうか迷った。
「ねぇセブ。あなたはどう思う?」
どこか期待した目をしてセブルスに訪ねてくるリリーは無邪気で愛らしい。入学前まではこの愛らしさに見惚れたものだったが、もはやそんな気持ちにはなれない自分がいる。いっそ、リリーのことを好きだとまだ思えていたなら、とセブルスは臍を噬んだ。
シリウスに出会っていても、セブルスのリリーへの気持ちが変わらないままであったなら、セブルスはこれほどシリウスのことで悩みはしなかっただろう。
悶々とするばかりの自分に嫌気が差すが、セブルスはリリーに本当のことを言うことができなかった。
「大丈夫だと思う。柔軟な考えの人だったから、きっと身分だとかで人を判断なんてしないだろうし……」
「そうよね。彼、ジェームズなんかよりよっぽど良い人だもの」
セブルスの返答に満足げに頷いたリリーを見て、セブルスは居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
リリーのような綺麗で優しく、分け隔てない人間ならいざ知らず、セブルスのような人間が彼の『優しさ』を向けられる対象に当て嵌まることはないだろうと思った。シリウスが仲良くしてくれるなんて、そんなことはありえない。コンパートメントでのことは、あれがシリウスのお遊びだったから許されたのだ。ホグワーツに入学した以上、弁えた行動のできない人間など淘汰されるのみ。それが別寮生なら尚更だ。
セブルスはどうしてか、シリウスがグリフィンドールに選ばれることを確信していた。コンパートメントで、グリフィンドールに入るのだと、きっぱり言い切っていたシリウスの言葉がセブルスの脳裏を過る。
ホグワーツの歴史的にも、グリフィンドールとスリザリンの相性は頗る悪い。スリザリンに入るつもりのセブルスでは、シリウスの友人としてすら隣に立てないだろう。
セブルスは自分がグリフィンドールの気質など欠片も持ち合わせていないことを理解していた。だからこそ、シリウスとの間にある開くばかりの隔たりを知り、気質的にグリフィンドールに選ばれるだろうリリーが羨ましくて仕方がなかった。
自らの内に燻る嫉妬の心を認識し、セブルスはますます自分の醜さに嫌気が差す。もはや泣いてしまいたい気持ちだった。
「――グリフィンドール!」
そこに追い討ちをかけるように、組分け帽子がシリウスの入るべき寮の名を叫んだ。
歓声と悲鳴の混ざり合った生徒達の声が大広間に響き渡る。耳を塞ぎたくなるほどの煩さの中、シリウスが優雅に立ち上がってグリフィンドールの寮席に進んでいくのを、セブルスは自分の顔に落ちてきた伸ばしっぱなしの前髪の隙間から見た。
セブルスのことなど少しも眼中にないという様子で、こちらを一瞥さえしない。
これが現実だと、セブルスは知らしめられたような衝撃を受け、自分の名前が呼ばれるまで、大広間の床を見つめることしかできなかった。